「安心・安全なクラブ運営」と聞いて、何を思い浮かべますか。熱中症対策、けが防止、AEDの設置——多くの運営者が挙げるのは身体的な安全です。しかし2025年、この「安心・安全」の定義そのものが法律レベルで変わりました。地域スポーツ団体の運営者が知っておくべき変化を整理します。
14年ぶりの改正スポーツ基本法で何が変わったか
スポーツ基本法が2011年の制定から14年ぶりに改正され、2025年6月に成立、同年9月に施行されました。注目すべきは新設された第29条です。一部を抜粋します。
国及び地方公共団体は、スポーツを行う者に対する、暴力、優越的な関係を背景とした言動であって業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、性的な言動、インターネット上の誹謗中傷等によりスポーツを行う者の環境が害されることのないよう、必要な措置を講じなければならない。
つまり「安心・安全」の対象が、けがや事故への対策(身体的な安全)だけでなく、パワハラ・誹謗中傷への対策(心理的な安全)まで広がったということです。
スポハラ相談は毎年「最多更新」が続いている
この法改正の背景には、相談件数の増加があります。日本スポーツ協会(JSPO)等が運営するスポハラ相談窓口への相談は2022年度以降、毎年最高件数を更新しており、2025年度末時点で年間603件(大人向け窓口564件・子ども向け窓口39件)に達しています。
内訳を見ると、次の2点が重要です。
- 被害を受けた本人よりも保護者が通報するケースが多い
- 被害者の65%が中学生以下
件数の増加は「スポーツ現場が悪化した」ことを意味しません。むしろ「これまで見過ごされてきたものが、見過ごされなくなった」と捉えるべきです。地域の目が変わってきているのです。
団体が大きくなるほど「見られている」
プロスポーツチームを想像してください。ファンは愛着を持つほどチームの内実を知りたがり、その関心は会計や運営体制へ向かいます——あることないことも含めて。
これは地域スポーツ団体でもまったく同じです。会員や保護者が団体に愛着を持つほど、経営や運営への関心は高まります。団体規模が大きくなるほど、多くの地域住民から目を向けられている——この前提を運営側は常に意識しておく必要があります。
運営者が今やるべきこと
心理的な安全まで求められる時代に、個人の心がけだけで対応するのは不可能です。必要なのは団体としての仕組み、つまり倫理規程や対応マニュアルの整備です。具体的な整備の実務は指導者倫理規程の整備実務で解説しています。
規程整備は「問題を起こさないための守り」に見えますが、実際には保護者や地域からの信頼を獲得する攻めの投資です。「うちは心理的安全にも取り組んでいます」と示せる団体は、会員募集でも受け皿選定でも選ばれやすくなります。
出典
編集後記
「うちは暴力なんてないから大丈夫」という団体ほど、心理的安全の観点が抜け落ちていることがあります。言葉の強さ、SNSでの言及、選手間の関係——チェックする範囲が広がったことを、まずは運営メンバー全員で共有するところから始めてください。
— 地域スポーツ運営ナビ 編集部