「地域にアンケートを取って希望が多かった健康体操教室を開講したのに、全然人が来ない」— 総合型クラブ・少年団の運営者からよく聞くお悩みです。実はこれ、マーケティングの基本である「ニーズ」と「ウォンツ」の理解が不足していることが原因です。本コラムでは、経営学の父・ドラッカーの言葉を手がかりに、クラブ経営のマーケティング入門を解説します。
マーケティングとは「価値の提供」
AMA(アメリカ・マーケティング協会)の定義:
「マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである。」
時代とともに定義は変化しており、現代では「モノをどう売るか」ではなく「購入後の顧客との関係をどう持続するか」「社会にとって価値があるか」が重視されます。
ドラッカーの言葉:マーケティングの理想は「販売不要」
「マーケティングの理想は、販売を不要にすることである」
— Peter F. Drucker(1909-2005)
総合型クラブに当てはめると、理想のマーケティングは「チラシを全戸配布しなくても、地域住民からの相談が絶えない状況・またはその仕組みを作ること」です。売り込まなくてもお客さんの方から自然に集まる状態をつくる。そのためには「顧客(クラブ会員)をよく理解すること」が出発点になります。
ニーズとウォンツの違い
| 用語 | 意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| ニーズ(Needs) | 本質的な欲求。不足を満たすための目的 | 美しくなりたい・自信を持ちたい・仲間が欲しい・健康な体が欲しい |
| ウォンツ(Wants) | ニーズを満たすための具体的な手段 | 美容液が欲しい・運動したい・卓球教室に通いたい |
化粧品店で美容液を買う女性は、本当は「美容液」ではなく「美しい自分」を求めています。「美しい自分になりたい→美しい肌になりたい→美容液が肌によい→美容液が欲しい」という前段があって初めて要求が出ます。
よくある失敗:ウォンツばかり聞いてしまう
「どんな教室があると良いか」と地域アンケートを取ると、回答者はウォンツ(表面的な要望)で答えます。「健康体操教室」と回答が多くても、いざ開講してみると人が来ない — これはアンケートがウォンツを聞いていたためです。
ニーズを引き出す質問への転換
- ❌ 「どんな教室があると良いですか?」(ウォンツを聞いている)
- ✅ 「普段の生活で困っていることはありますか?」(ニーズを聞いている)
- ✅ 「あなたにとって楽しい毎日とはどういう状態を指しますか?」(ニーズを聞いている)
実例:野球教室のチラシ改良で参加者が倍増
伸び悩んでいたある野球教室のチラシを、以下の文言に変えただけで参加者が倍増した事例があります。
- 「当日参加OK!」
- 「送迎ありません!」
- 「当番制は禁止しています!」
- 「土日は子どもを預けるだけ!」
これらは保護者の「時間がない・当番負担を減らしたい」という本質的なニーズに応えた文言です。「野球をやりたい」というウォンツではなく、「送迎・当番から解放されたい」という保護者ニーズに刺さりました。
あるクラブの健康体操教室の秘密
あるクラブの健康体操教室(毎週火曜10:00〜12:00)は、チラシ一切なしで常時30名・会員数50名超を集めています。理由は、参加者の本質的なニーズを掴んでいるから。
「私は運動しに来るのもそうやけど、(他の参加者やクラブ関係者に)会いに来るような感じやな。旦那がおらんくなってから話す相手もおらんけんな。」
— 80代女性(参加者)
120分の活動のうち60分が休憩時間になることもあるこの教室。運動はあくまで「ついで」で、地域の人同士の顔合わせが本質的なニーズ。マネジャーがそれを理解して休憩時間に自然な会話が生まれる仕掛けを用意しています。
今日から始めるアクション
- 現在開講している教室を全て書き出す
- 各教室について「参加者は表面上何を求めて来ているか(ウォンツ)」を書く
- 各教室について「参加者は根本的に何を求めているか(ニーズ)」を推測する
- 次回の参加者アンケートを「困りごと」「楽しい毎日の定義」を聞く形に変える
編集後記
マーケティングは「売り込む技術」ではなく「相手を理解する技術」です。ドラッカーの言葉通り、顧客理解が徹底できれば販売は不要になります。次のコラムではニーズ理解の次のステップ、「STP理論でターゲットを絞る」を扱います。
— 地域スポーツ運営ナビ 編集部