人材・組織づくり

兼職兼業の教員を受け入れる前に — 労働契約書と役割の明文化が受け皿団体を守る

兼職兼業の教員を受け入れる前に — 労働契約書と役割の明文化が受け皿団体を守る

部活動の地域展開では、教員の兼職兼業(学校に勤めながら地域クラブの指導者を兼ねること)が推奨されています。受け皿団体にとって、競技を熟知した教員の参加は心強い——のですが、受け入れの準備を整えないままスタートすると、高い確率でトラブルになります


実際に起こった役割のすれ違い

地域展開の現場で実際に起こった例です。兼職兼業で参加した体育教員に対し、受け皿団体側からこんな依頼が続きました。

  • 「遠征の手配をしてください」
  • 「生徒が車にボールを当てました。対応お願いします」
  • 「土曜日はグラウンドが使えないので探してもらっても良いですか?」

団体側の言い分は「あなたも地域展開の時は団体スタッフなんだから、ある程度の対応はしてよ」。一方の教員は「指導だけを引き受けたつもりだった」。団体が求める役割と、教員が考える役割の間に齟齬が生まれているのです。


原因は「契約と規程の不在」

このすれ違いの原因は、どちらかの人間性ではありません。労働契約書や指導者倫理規程を整備しないまま受け入れていることです。文書がなければ、教員の位置づけは曖昧なまま。曖昧さは、日々の小さな依頼の積み重ねの中で必ず表面化します。


受け入れ前に明文化すべき5項目

  1. 業務範囲——指導のみか、送迎・会場確保・保護者対応まで含むのか
  2. 報酬と勤務時間——時給・回数・上限時間。兼職兼業の許可条件との整合も確認
  3. 事故対応の責任分担——活動中のけが・物損の一次対応は誰が行うか、保険は誰のものを使うか
  4. 倫理規程への同意——暴力・ハラスメント禁止、SNS利用などの行動原則(倫理規程の整備実務
  5. 契約の終了条件——年度途中の辞任・解任の手続き

なお、就業規則が「給料・労働時間・休日・懲戒など労働条件」を定めるのに対し、倫理規程は「守るべき行動の原則」を定めるもの。両方が揃って初めて役割の曖昧さが消えます


明文化は教員を守るものでもある

契約書というと「団体が教員を縛るもの」に見えますが、実際は逆です。業務範囲が明文化されていれば、教員は「それは契約外なのでお受けできません」と気兼ねなく言えます。曖昧なまま善意で引き受け続けて疲弊し、年度途中で去ってしまう——受け皿団体にとって最大の損失を防ぐのが、この一枚の文書です。

教員の兼職兼業を含む部活動地域展開の制度動向は部活動地域展開ナビで確認できます。


兼職兼業の「許可」は学校側の手続き

忘れられがちですが、公立学校の教員が報酬を得て地域クラブを指導するには、教育委員会の兼職兼業許可が必要です。許可申請には従事先・業務内容・報酬額の記載が求められるため、受け皿団体側が業務範囲と報酬を明文化していないと、教員は許可申請すら出せません。契約書の整備は、教員に気持ちよく参加してもらうための前提条件でもあるのです。

許可の運用基準は自治体によって異なるため、受け入れ前に該当する教育委員会の基準を教員本人経由で確認しておくとスムーズです。


編集後記

「仲が良いうちは契約書なんて不要」という声もありますが、契約書は仲が良いうちにしか作れません。受け入れ初年度の今こそ、明文化のタイミングです。

— 地域スポーツ運営ナビ 編集部